法務の樹海

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司法修習備忘録④検察起案の考え方と書き方

今回からは何回かに分けて、司法修習での起案の基礎となる考え方と実際の起案について、全体を俯瞰しつつ、私が躓いたところ意識しながら書いていきたいと思います。

 

 

1、検察起案の鉄則

「終局処分起案の考え方」に則って書く、というのは鉄則中の鉄則です。初めから口を酸っぱくして「ええからこれ覚えとけ」と言われるので、形式面ではこれを完璧に記憶するのがまずは最優先となります。私は集合修習中期まで、若干細部についての記憶があいまいなまま起案をしていたので、少し苦労しました。

 

2、要証事実と証拠構造

(1)要証事実

 刑事裁判でも民事裁判でも、まずは要証事実(主要事実)が何なのかということを明確に認識することがスタート地点となります。刑事裁判における要証事実は、まずは起訴状に記載された公訴事実という形で示され、その後、証明予定事実記載書でより細かな内容や重要な間接事実が示されることになります。前提としてここを明確に認識しておかないと、起案で検討すべき点についての理解が曖昧になります。

 そして、検察起案における主な要証事実は、①犯人性、②構成要件該当事実(及び違法性阻却事由・責任阻却自由の不存在等)ということになります。前者は、公訴事実記載の行為を行ったのが被告人であるという事実、後者はその行為が構成要件に該当する違法・有責な行為であるという事実です。以下、犯人性と構成要件該当事実(検察起案では「犯罪の成否」と呼びます)について、具体的にどういうことを意味しているのかを少し詳しく見ます。

①犯人性について

 例えば、AがVを包丁で刺して殺したという事件があったとします。Aは犯行現場から逃走し、その後、警察はなんやかんやと証拠を集めて山田太郎という男がVを殺したAなんじゃなかろうかということで逮捕してみました。では、山田太郎は本当にVを殺したAなのか。この疑問に答えるのが犯人性についての起案です。ここでの要証事実は山田太郎が(Vを刺して殺した)犯人だ」ということになります。

②犯罪の成否について

 仮に、犯人性の検討で山田太郎がAであるということが認められたとします。犯罪の成否とは、この山田太郎が犯人であることを前提として山田太郎の行為が殺人罪の構成要件に該当することを認定する起案です。要証事実は「(山田太郎の)殺人の実行行為、結果、実行行為と結果との間の因果関係、故意」ということになります。

 ここで一つ疑問が湧くと思います。「そもそも犯人性の起案をするときに、AがVを包丁で刺して殺したということは認定しているのだから、さらに犯罪の成否を検討するのは重複なんじゃないか」…確かにそういった側面はあります。ただ、犯人性の検討部分では、被疑者の主観面(故意や不法領得の意思)や違法性阻却事由は検討しませんし、社会的事実として、客観的に上記のような事実が認められることと、法的評価として殺人罪が成立するか否かは一応は区別可能だと考えます。

 従って、とりあえずの理解として、犯人性の検討は「なんか問題となりそうな事件を起こしたのは誰なのか」という検討で、犯罪の成否とは「問題となりそうな事件は刑法的に見れば何罪に該当するのか」の検討だと考えておけばいいと思います。これらは「終局処分起案の考え方」の1ページ目にさらっと記載してあって読み飛ばしがちな事項なのですが、起案を組み立てるにあたってはこれらの事項を理解しておくことが極めて重要ですので、よく理解しておきましょう。

 

(2)証拠構造

 次に、要証事実が明らかになったとして、それをどのような証拠で認定するのかが問題となります。講義では、直接証拠による要証事実の認定と、間接事実による要証事実の認定というのを習うと思います。それぞれがどのような認定プロセスになるのかは、白表紙をよく読めば分かりますが、証拠構造はマジで重要なので、どんな起案をするにしても意識するようにしてください。以下では、犯人性にかかる直接証拠と間接事実の具体例を挙げます。

①直接証拠

 典型的には、被害者供述・目撃者供述(山田太郎がVを殺したところを見た)や、犯人の自白(俺がVを殺した)がこれに当たります。もちろん、これら以外にも直接証拠はありえますが(例えば一定の条件を満たしている防犯カメラ映像等)、検察起案、特に犯人性の部分については都合のいい直接証拠はほぼ出てくることはありません。直接証拠があれば一発で犯人性を認定できるので、起案としての意味をなさないためだと考えられます。検察起案において重要なのは、間接事実です。

②間接事実

 検察起案では特に犯人性起案について、いくつか典型的な間接事実があり、それを抽象レベルで押さえておけば、ほぼすべての起案に対応できます。なお、経験則と反対仮説については、刑裁起案の記事で詳しく述べるので省略します。

  • 被害品の近接所持:「被疑者は盗まれた財布を時間的場所的に接着した場所で持ってた。だから被疑者は犯人だ」ということです。検察起案の被疑者は、よく被害品を犯行現場周辺で所持しています。なお現実には、財布を盗んだ窃盗犯は財布から金を抜き取って即座に財布を捨てます。
  • 現場に残された血液のDNA型と被疑者のDNA型の一致:「現場に遺留された血液のDNA型と被疑者のDNA型が一致した。だから被疑者が犯人だ」ということです。検察起案ではよく犯人が被害者の抵抗にあって血を流し、その血痕が現場に残っています。そしてその血痕から採取したDNA型と、被疑者のDNA型は、奇妙なことに大体一致します。
  • 犯行供用物件の近接所持:「被疑者は犯行に使用された車や凶器を持っていた。だから被疑者が犯人だ」ということです。検察起案では犯人は車・包丁・ロープなど多彩なモノを用いて犯行を行います。そしてそれらのモノは、なぜか特徴的です。
  • 犯人と被疑者の特徴一致:「防犯カメラに映っている犯人の特徴と被疑者の特徴が一致しているor被害者の目撃供述から認定できる犯人の特徴と被疑者の特徴が一致している。だから被疑者は犯人だ」ということです。これは結構眉唾です。メインの間接事実にするのは難しいことが多いです。
  • 犯行手段の排他性:「ある手段を用いて犯行を行うことができるのは被疑者だけだった。だから犯人は被疑者」ということです。たまに見ました。犯行供用物件の近接所持の亜種みたいな感じです。
  • 犯行動機がある:「被害者は金に困っている。だから被疑者が犯人だ」ということです。ぱっと見で分かるように、これも眉唾です。メインの間接事実にするのは難しいことが多いですが、とりあえず挨拶程度に書いておきましょう。

 この内、重要なのは上3つ、犯人と被疑者の特徴一致は時々重要、ということが多いです。「犯行によって移動したモノ(被害品・遺留物・犯行供用物件)が犯人と被疑者を結びつけるカギになる」と考えておけばいいでしょう。記録を読むときは、「このモノはどうやって被疑者のところに移動したのか/被疑者はどうやってこのモノを使ったのか」という視点で読むと、間接事実が整理しやすくなります。

 

(3)小括

 さて、ここまでで検察起案というのは「①犯人性と、②犯罪の成否を、直接証拠と間接事実を用いて認定するプロセスを、終局処分起案の考え方に従って書く起案である」ということが明らかになったと思います。以下では、実際に起案を行う際に躓きやすい部分を箇条書きのような形で記載していきます。

 

3、検察起案躓きの石(犯人性)

(1)記録読みの順序と観点

 記録を読む順番をどうするか、何を意識して読むかというのは、修習初期においては非常に迷う部分です。まず、記録読みに慣れていない段階では頭から順番に読むことをお勧めします。記録は時系列に並べられていて、ざっくりとは初動捜査→逮捕・勾留→裏付け捜査といった具合に展開していきます。ここで最も重要なのは、逮捕に至るまでの記録です。なぜなら、警察官は逮捕に至るまでの捜査で、犯人性・構成要件該当性いずれも被疑者が行ったと疑うに足りる相当な理由があると判断し、裁判官もこれを認めて令状を発布しています。つまり、逮捕までの段階で、ある程度決定的な証拠が出てきているはずで、どの証拠を根拠に逮捕をしたのかを特定すれば、自ずと記載すべき重要な間接事実が明らかになるからです。

 逮捕が行われたのちは、被疑者の取り調べが行われて供述が録取されますが、その後の捜査はこの供述の裏付けや、逮捕時までにそろわなかった追加の証拠の収集が行われます。さらに、検察官による供述録取では、検察官が公訴を維持するために補強が必要であると考えた事項について取り調べが行われ、その後の捜査はその裏付けのための証拠収集が行われます。この段階において重要なのは、被疑者が否認をしている場合には、その弁解を裏付ける事実があるのか(起案上は被疑者供述の信用性検討という形で表現されます)、その弁解を前提としてもなお公訴を維持するに足りるだけの事実関係があるのか、ということが記録上読み取れるかどうかになります。そして検察起案においては、いずれも必ず記録上読み取れるようになっています。

 まとめると、逮捕までの記録を読んで最も重要な間接事実を把握し、逮捕後の供述録取や裏付け捜査の記録から、合理的なアナザーストーリーを潰すに足りる間接事実を探し出すというのが、記録の大まかな読み方になると思われます。ただ、私のクラスの検察志望の非常に優秀な修習生は「まず検面調書から読んで公訴維持の障害になりうる重要な論点がどこなのかを把握した上で、前から記録を読む」と言っていました。これは記録全体の構造が頭に入っていて、検察起案における典型的なストーリーを知悉しているからこそできる読み方なので、初心者にはあまりお勧めしませんが、卓見だと思います。

(2)前提となる犯罪事実の書き方

 さて、前半でも述べましたが、犯人性の論述をするにあたっても、前提となる犯罪事実を一定程度は記載する必要があります。何が起きたかが分からなければ、ある間接事実がなぜ被疑者の犯人性を推認させるのか分からないからです。では、どのタイミングでどうやって書けばいいのか。記載例でいえば認定プロセスの第一段落が、間接事実検討の前提となる犯罪事実の記載ということになります。例えば、現場に遺留されたDNA型と、被疑者のDNA型が一致したという間接事実を記載したいとするのであれば、認定プロセスの冒頭で。

  • 犯人は●月●日●時頃に、▲▲で、Vを日本刀で刺し、その際、Vともみ合いになって転倒した拍子に、床に落ちていたガラス片で左手の手のひらを負傷した(V供述)。以下「現場から採取されたガラス片に血液が付着していたこと、その血液と被疑者の血液DNA型の同一性を鑑定したところ、同一であることが明らかになった」ということを論述。

といったような形で、最初に記載する間接事実の部分で、さらっと「何があったのか」を書いておけばいいかと思います。もちろん、認定するために用いた証拠の引用は必要ですし、それが供述証拠であれば必要に応じて信用性の検討をしなければなりません(信用性に疑義を生じさせるような事情がないのであれば単に「●●供述」とだけ記載するでも問題ありませんが、この際、被疑者供述を用いないように注意してください)。そして、例えば続く間接事実で、犯行に使用された日本刀を被疑者が所持していたことを指摘したいのであれば、

  •  間接事実1に記載の通り、犯人は日本刀でVを刺している(V供述)。以下、被疑者が日本刀を所持していたこと、その日本刀が犯行に使用されたものと同一であることを示す事実を論述。

というように、多少重複になってもいいので、毎度さらっと間接事実の内容にかかわる部分の犯行の様子を記載をしておくといいと思います。私はこの部分の記載の仕方がいい加減で、起案のコメントで「概要でいいので何が起こったのか書くように」と指摘されていました。

 なお、一点注意すべきなのは、被害者供述です。考えれば当たり前ですが、犯行の様子に関する被害者の目撃供述は、一見直接証拠のように見えますが、犯人性の認定との関連では直接証拠ではありません。従って、前提事実に関する部分については、被害者供述を用いて直接認定することは可能です。

(3)間接事実のまとめ方

 次に間接事実のまとめ方についてです。起案講評においてよく言われていたのが「間接事実を分解しすぎずある程度まとめて書け」ということです。ただ、ある程度まとめて、といわれても実際どうしたらいいのかはよくわからないですよね。そもそもまとまっていない間接事実の書き方を見せてくれという話です。一つの視点としては、検察起案においては、犯人性を認定する決め手になるような間接事実は多くても3つぐらいで、あとはその3つを補完するような間接事実であることが多いため、間接事実の合計は重要なものが2・3個、補完的なものが2・3個で計6個ぐらいになるのが普通です。そうすると、これ以上間接事実が上がっているとすれば、細かいところまで上げすぎが、分解しすぎということになってきます。あまりにも挙げている間接事実の数が多くなる場合は、まとめることを検討しましょう。

 さて、具体的に分解しすぎというのはどういうことをいうかを書きます。例えば「犯行に使用された包丁と、被疑者が購入していた包丁が同一であること」という間接事実を認定したいとします。そのためには

  • 犯行に使用され、現場に遺留された包丁にユニークな特徴があること(シリアルナンバーがふられていることなど)
  • 被疑者が購入していた包丁に上記と同一の特徴があること
  • 特徴が一致する包丁が他に存在しないこと(シリアルナンバーがユニークであること)

といった事実を証拠によって認定する必要があります。上記の事実は分解して書こうと思えば書くことができますが、分解して書くと一つ一つの推認力が落ち、総合評価で強い推認力が生じるという迂遠な認定になります。それなら初めから「犯行に使用された包丁と、被疑者が購入していた包丁が同一であること」と掲示して、その認定プロセスの中ですべて触れてしまうのが良いと思います。

 まとめると、ある特定の事項について複数の間接事実が挙げられると思った場合は、それらを色々な角度から分解して記載するのではなく、まとめるとどういうことが言えるのかという観点から大きい間接事実を考えましょうということになります。そこで効いてくるのが、前に述べた犯人性の認定にかかる典型的な間接事実です。だいたい記載したような間接事実でまとめて書くことができます。

 

(4)供述証拠の信用性検討の密度とタイミング

  供述証拠(直接証拠と被疑者供述・共犯者供述以外の供述証拠のこととします)の信用性検討の方法は、白表紙に書いてある通りなので割愛しますが、いつ、どの程度検討する必要があるのかは迷うところです。

①大した供述じゃないor信用性に疑義がない場合

 大して信用性に疑義を生じさせるような事情がない場合には、証拠引用の()書きの中にさらっと「(V供述。1/20報などの客観的証拠と合致し、その他不自然不合理な点はなく、信用性は認められる)」と書くぐらいでもいいと思います。

②重要な供述で信用性に疑義がある場合

 間接事実の根幹に関わるような供述証拠であって、かつ、信用性に疑義が生じるような事情がある場合には、信用性検討はがっつりやる必要があるでしょう。この場合、信用性検討の場所は通常、「その間接事実の認定プロセスの中」ということになるでしょう。認定プロセスの中で段落を変える、ナンバリングを変えるなどして、独立した項目を設けてもいいと思います。例えば下記です。

  • 本件で、犯人はVを日本刀で切りつけた後、Vのカバンをあさって財布を盗んでいる。これは、Bの供述より認定することができる。この点にかかるBの供述の信用性が認められることは、以下の通りである。すなわち、Bが犯行を目撃した時間は午後14時、場所は路上であって視認条件には特段の問題はなく…(以下信用性検討)…以上によれば、Bの供述の信用性は認められる。

③重要な供述で複数の間接事実にまたがっている場合

 複数の間接事実にまたがっている場合、信用性検討の場所としては、一番初めにでてきた間接事実ですべて検討してしまうか、間接事実ごとに供述を切り出して検討するということが考えられます。初めに出てきた間接事実の部分で全体の信用性を検討すると、後で引用するのが楽な一方、検討を落とすと後ろの方でリカバリーがしにくいので、これはケースバイケースです。一般論としては「信用性検討のポイントと、各間接事実との絡みが全て見えている場合には、最初の間接事実の認定プロセスの中でまとめて検討する、そうでない場合には各事実ごとに切り出して検討する」ということでいいと思います。まとめて検討する場合の記載は、②の記載を全体に拡張して書くだけです。

 

(5)推認力検討

 間接事実が犯人性を推認させるとして、その推認力がどの程度なのかを記載する際に、反対仮説の検討がキモになります。これは講義で当然言われることです。ただ、慣れていないうちはどうしてもセンスのない反対仮説を立てがちですので、典型的な反対仮説を以下に紹介しておきます。これは、典型的な間接事実と裏返しの関係にあります。

  • 被害品の近接所持:「被疑者は盗まれた財布を時間的場所的に接着した場所で持ってた。だから被疑者は犯人だ」に対しては「被疑者が第三者(真犯人)から被害品を受け取った」という反対仮説が立ちます。この反対仮説が合理的かどうかは、時間的場所的な接着の程度、具体的に想定し得る第三者の存在で変動します。
  • 現場に残された血液のDNA型と被疑者のDNA型の一致:「現場に遺留された血液のDNA型と被疑者のDNA型が一致した。だから被疑者が犯人だ」に対しては「犯行時以外の場面で被疑者の血液が犯行現場に付着した」という反対仮説が立ちます。この反対仮説の合理性は、付着させる別の機会が具体的にあったかどうか、で変動します。
  • 犯行供用物件の近接所持:「被疑者は犯行に使用された車や凶器を持っていた。だから被疑者が犯人だ」に対しては「被疑者は第三者(真犯人)からこれらのモノを受け取った」という反対仮説が立ちます。この反対仮説の合理性検討は、被害品の近接所持と同様です。
  • 犯人と被疑者の特徴一致:「防犯カメラに映っている犯人の特徴と被疑者の特徴が一致しているor被害者の目撃供述から認定できる犯人の特徴と被疑者の特徴が一致している。だから被疑者は犯人だ」に対しては「特徴が似ているだけで別人だ」という反対仮説が立ちます。この反対仮説の合理性は、特徴のユニークさ(「左ほほに十字傷がある赤毛の男」であればほぼ抜刀斎だ等)と、目撃者と被疑者の関係(数年来の友人でよく顔を知っているので間違えない)に依存します。
  • 犯行手段の排他性:「ある手段を用いて犯行を行うことができるのは被疑者だけだった。だから犯人は被疑者」が成り立つと反対仮説の成立は困難です。ただ、「可能性が高い」という程度にとどまるのであれば「被疑者以外の第三者が犯行を行った」という反対仮説が立ちます。この反対仮説の合理性は、当該犯行手段を行うことができる第三者を具体的に想定できるかどうかに依存します。
  • 犯行動機がある:「被害者は金に困っている。だから被疑者が犯人だ」に対しては「動機はあるが被疑者は犯行には出ておらず、やはり犯人は第三者」という反対仮説が立ちます。この反対仮説はそれ自体として合理的なことが多く、具体的な事情を検討するまでもなく推認力は低いとして差し支えない場合が多いです。

 

まとめると、最も重要な遺留品・被害品・犯行供用物については、「第三者(真犯人)から受け取った/渡した、そしてその可能性が具体的に存在する」ということが主要な反対仮説になりますので、そのようなことを書いておけば最低限の点数はもらえます。たまにトリッキーですが合理的な反対仮説がある場合がありますが、それはみんな思いつかないので大丈夫です。

 

(6)総合評価のやりかた

 最後に、総合評価の行い方について検討します。まず重要な間接事実は2つか3つだと思われるので、それらを否定する反対仮説が同時に成り立ちうるかを書きます(当たり前ですが大体なりたたないです)。その上で、それらの間接事実から考えられる合理的なストーリーを書きます。そして、その他の間接事実がストーリーを補強することを指摘し、重要な間接事実の立証方法とその難易を書いて終了です。このうち重要なのは「間接事実を複数上げて、それらの反対仮説が同時に成立する現実性がないこと」を指摘することです。総合評価は書きにくい部分はありますが、慣れればわりと簡単なので(「その反対仮説同時に成り立ったとしたら犯人かなりクレイジーじゃね?」みたいな視点を持てばいいと思います)、何度か起案をする中で意識的に取り組むと良いでしょう。

 

4、検察起案躓きの石②犯罪の成否

 犯罪の成否についてはあまり書くことはないのですが、一般的にやってしまいがちなこと箇条書きで書いていきます。

(1)時間切れ

 犯人性の論述で力を使い果たして時間切れになることがよくあります。全体の答案作成バランスを考えましょう。犯人性の論述で些末な間接事実を上げすぎると時間切れになります。

(2)構成要件の意義が適当

 構成要件の意義の記載が適当になってしまいます。刑法各論とかすっかり忘れて定義も言えないポンコツになっていた私は、思い出すのに苦労しました。また、時間がないと適当に書きがちです。

(3)証拠引用不十分

 犯罪の成否においても、事実の認定は証拠に基づいて行わなければなりませんし、供述証拠を用いる場合には信用性を検討する必要があります。時間が足りないことからこれを適当にやってしまうことがよくありますが、あまりにもおろそかにしすぎると二回試験でやられますので注意しましょう。

(4)消極的証拠の不検討

 犯人性の論述では消極的証拠は反対仮説の合理性検討という文脈でしかでてこないので前面に出てきませんが、犯罪の成否では結構でてきます。特に被疑者の弁解には注意しましょう。

 

5、まとめ

 さて、凄まじい長文になってしまいましたが、検察起案については以上です。自分が取り組んだこと、躓いたことはほぼすべて網羅したつもりなので、晴れて検察起案の記憶は脳の最深部に閉じ込めることができ、個人的にも満足です。次回は刑事裁判起案について書きたいと思います。

 

 

刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(上)

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刑事事実認定重要判決50選〔第2版〕(下)

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