法務の樹海

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NDA(秘密保持契約)の読み方・レビュー方法

連投しているのは暇だからということでは決してありません。

今回はNDAの読み方とレビュー方法について書いてみたいと思います。以前の記事で「NDAのレビューまじ面白くない」と言っていたのですが、何人かの友人から「NDAのレビューってどうやるの」という質問が来たので、次同じ質問が来たらこのページ見てもらおうと思い、筆をとった次第です。なお、本記事の文例の一部は経産省の秘密保持契約ひな形から借用しているものもありますので、秘密保持契約の全体が気になる方はそちらもご参照ください。最下部にリンクを張っています。

 

 

1、冒頭・目的規定

NDAの冒頭には、NDAを締結する目的が記載されることが多いです。例えば下記のような感じです。

本機密契約書は、甲と乙が自動運転プログラムの開発に関する事前協議を行うにあたり、甲乙間でやり取りされる秘密情報の取り扱いについて以下の通り合意する。

下線部が目的を示す文言になります。この文言、さらっと書かれていますが、秘密情報のスコープを決めるにあたって重要な文言ですので、よく検討しましょう。この目的の下にやり取りされた情報が秘密保持の対象と「なり得る」情報になるので、この部分の記載がおかしいと秘密保持の対象が過度に広がったり、あるいは秘密を保持されるべき情報がNDAのスコープから外れてしまったりします。

 

検討の視座は次の通りです。

  • 目的は現場の検討事項と合致しているのか:例えば検討するのは「自動車の」自動運転プログラムのはずが、「飛行機の」自動運転プログラムという記載がされていないかという点です。ここがずれると保護される情報の範囲がずれるのでNDAの目的を達成できません。
  • 目的が明確かつ具体的に定められているか:例えば単に「プログラムの検討」とされていると何のプログラムかわからないので、どの範囲の情報が秘密保持の対象となるかが曖昧になります。おそらく実務レベルでは「自動運転プログラム」でも曖昧・漠然としているという判断になります。

以上の点は、NDAの検討を依頼してきた部門とよく相談して検討するようにしましょう。「本当にこの目的で間違いないですか?」「これで十分特定できるといえますか」といったことが基本的なヒアリング事項になります。

 

2、秘密の対象

次に、秘密保持の対象とする情報をどのように特定するかという文言があります。だいたいパターンは二つで、①やりとりした情報が全て秘密保持の対象となる情報になる、②秘密であることを明示した情報だけが秘密保持の対象になる、というところになります。細かく言うともっとバリエーションがありますが、実務でよく見るのは上の二つ、特に②です。文言例は下記です。

本契約における「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報をいう。

これも非常に重要な条項です。さらにこの明示の仕方を具体的にすることも考えられます。例えば下記です。実務的に無理なく秘密であることを明示する方法を記載しておくのが重要です。

…秘密であることを書面で明示した情報のことをいう。ただし、口頭で提供された情報については、提供から7営業日以内に当該情報が秘密である旨が書面で明示された場合に限る。

また、目的外使用の禁止も挿入しておくべき項目です。文例は下記です。

受領者は、本件協業検討以外の目的で、秘密情報を使用してはならない。

検討の視座は下記の通りです。

  • やりとりした一切の情報が秘密保持の対象となるとの記載はできれば避ける:情報の管理が煩雑になりますし、どうでもいい情報まで一旦は秘密保持の対象となるとするのはおよそ合理的とはいえず、結局裁判になった場合に合理的解釈で秘密保持の対象が縮減されてしまうおそれがあるためです(より正確に言うと「どういった縮減のしかたがなされるかわからない」ということがリスクになります)。
  • 実務上無理な記載になっていないか:例えば7営業日以内に機密であることを書面で明示するというのが実際可能かといった点を検討することになります。
  • NDAの締結自体や検討自体を秘密情報に含めるかどうか:そもそも検討していることを他社に知られたくない場合には、検討自体を秘密情報として指定しておく必要があります。

この条文は具体的にNDAで秘密保持の対象となる情報が何なのかを明らかにする条文になりますので、実務に即してしっかりと検討しましょう。

 

3、例外規定

やり取りされた情報のうち、カテゴリカルに秘密情報から除外される情報を指定する条項です。例文は下記です。

ただし、以下の情報は秘密情報の対象外とするものとする。
① 開示を受けたときに受領者が既に保有していた情報
② 開示を受けた後、受領者が秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
③ 開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく受領者が独自に取得し、又は創出した情報
④ 開示を受けたときに既に公知であった情報
⑤ 開示を受けた後、受領者の責めに帰し得ない事由により公知となった情報

この条項は定型でほぼ決まり切ったことがかかれているので、あまり重要度は高くありません。書かれるべき事項が一通り書かれていれば問題なしです。ただ、この条文に、下記のような情報が入っていることがあります

裁判所その他官公庁から適法に開示要請を受けた情報

これは秘密情報からの除外、という形で定めるべき事項ではありません。官公庁から開示を要請されたからと言って、第三者との関係で秘密保持義務を排除していいわけではないためです。これは秘密保持義務の条項で、当該官公庁との関係のみにおいて非開示義務が免除されるという書き方をするべきです。

 

4、秘密保持義務

秘密情報について、秘密を保持する義務を定める条項です。文例は下記です。適用例外にコンサルタントが含まれていることがありますが、定義が不明なので見かけたら削除しておくことをお勧めします。

受領者は、開示者の書面承諾なく、秘密情報を第三者に開示してはならない。ただし、弁護士、会計士、税理士など、法令上の守秘義務を負う者についてはこの限りではない。

社内の情報管理規定などで、会社の機密情報を第三者に提供する場合に、当該第三者に情報管理責任者を設置させなければならないといったことが定めている場合には、そういった事項も入れます。

また、前述の通り、法令に基づいて官公庁などから開示要請が来た場合には、当該官公庁との関係においては非開示義務を免除するとの文言を付しておくことも考えられます。この場合の文例は下記です。

前項の規定に関わらず、裁判所その他の官公庁から適法に開示要請を受けた情報については、受領者は、当該官公庁に対して秘密情報を開示することができる。ただし、受領者はこのような要請があった場合、直ちにこれを開示者に通知し、その対応について協議しなければならない。

下線部は、要請があったからといってなんでもかんでも開示するなというメッセージになります。

 

5、秘密情報の返還・破棄

開示された秘密情報の返還・破棄について定めた条項です。文例は下記になります。

1.本契約に基づき相手方から開示を受けた秘密情報を含む記録媒体、物件及びその複製物(以下「記録媒体等」という。)は、不要となった場合又は相手方の請求がある場合には、直ちに相手方に返還するものとする。
2.前項に定める場合において、秘密情報が自己の記録媒体等に含まれているときは、当該秘密情報を消去するとともに、消去した旨(自己の記録媒体等に秘密情報が含まれていないときは、その旨)を相手方に書面にて報告するものとする。

 「そもそも返還が可能なのか」といった実務的な対応の実現可能性を検討するのがポイントです。無茶な要求をされる余地があるような文言は削りましょう。例えば「受領者は、本件協業の検討後、受領した秘密情報をすべて返還する」といった文言が無茶な要求をされる余地があるような文言に該当します。

 

6、有効期間・残存期間

秘密保持の期間を定める極めて重要な文言です。有効期間というのは秘密保持契約自体が存続する期間を、残存期間というのは秘密保持契約の内特定の条項が秘密保持契約自体の終了にもかかわらず存続する期間のことをいいます。文例は下記です。

本契約の有効期間は契約締結日から1年間とする。ただし、本契約第〇条、第●条の規定の効力は、本契約終了後も3年間存続するものとする。

第1文が有効期間、第2文が残存期間の定めになります。検討の視座は下記の通りとなります。

  • そもそも期間が定められているか:有効期間が明示されていない契約もあります。永遠に効力が存続するかのように読めてしまうので、検討期間の見通しを事業部門に確認した上で、合理的な期間を設定するべきでしょう。また、有効期間があって残存条項もあるが、残存期間は設定されていないということがあります。通常、残存条項は秘密保持義務の効力を残存させるものになりますが、いつまでも義務を負い続けると負担が大きいので、これも合理的な期間(一般的には2-3年かと思います)を設定しておきましょう。
  • どの程度の期間設定が妥当か:悩ましい問題だと思われます。事業部門に協業の検討期間と、最低何年程度秘密を守ってもらいたいかを確認しましょう。事業部門が解を持っていない場合、えいやで決める他ありません。

この条項も重要な条項です。どの程度の期間を設定するかは悩ましい問題ではありますが、ともかく期間が設定されていることが重要なので、何も書いていない場合は有効期間を必ず記載するようにしましょう。

 

7、準拠法・裁判管轄

いわゆる一般条項にはなりますが、協業が進んで業務提携契約が結ばれた場合、その業務提携契約と適用法・裁判管轄がずれていると、厄介な問題が生じます。この点は次項で説明します。

 

8、応用1:本契約との内容抵触

開発検討がうまくいって業務提携契約などの本契約を締結する場合、本契約とNDAの効力関係が問題となります。問題となるのは下記のような点です。

  • 業務提携契約などの締結によってNDAは終了するのか
  • 業務提携契約などの中に秘密保持条項がある場合、どちらの条項が優先するのか
  • 業務提携契約とNDAで準拠法・裁判管轄が異なる場合、どちらの条項が優先するのか

ケースバイケースで検討するほかありませんが、視点としては次のようなものが考えられるます。

  • 後法は先法に優先する:後の合意が優先するという考え方です。NDAの内容と業務提携契約の内容に「矛盾」がある場合は、この原則が適用される可能性が高まります。
  • 特別法は一般法に優先する:より具体的に事項を定めた方が優先するという考え方です。
  • 併存:どちらの効力も等しく併存するという考え方です。両契約間に矛盾抵触がない場合、併存すると考えるのが妥当な場合があります。

常識的には、NDAは本契約を締結するまでの検討段階に適用され、本契約が締結されればそちらの条項が優先して適用されると考えるのが合理的なのではないかと思います。しかし、検討の状況(検討の結果一部は業務提携に結実したが一部はまだ検討中である)や、文言の定め方でどちらが優先するかは変わってくることは容易に想像できます。

従って、リスクコントロールの観点から言えば、業務提携契約を締結する際に、業務提携契約内の文言で、適用関係を明確にしておくべきだと思います。

 

9、応用2:実務的な秘密の指定方法

秘密情報の定義の部分で「秘密と指定した情報が秘密なんだ」という扱いをする場合、実務的に果たしてそのような指定が可能なのか、ということが問題となりえます。資料を渡す際に「機密」「複製不可」などのスタンプを押す、メールで資料を送付する際は「この資料は機密です」といった文言を入れるなどが考えられますが、現場の人がいい加減だとこういったことをやってもらえない可能性もあります。現状、機密情報を外に出す際にどのような取り扱いがされているのかを確認した上で、現場の人たちが合理的に可能な「秘密指定の方法」というのを考えるのも法務の役割と言ってよいと思います。

 

10、応用3:社内規定の考慮

今日において多くの企業は、社内規定として情報管理規定を定めていると思われます。これは、会社内で取り扱う情報を不正競争防止法上の「営業秘密」に該当させるために必要な措置であり、その規定に従って情報を管理する必要があります。情報管理規定内には、通常、第三者に情報を開示する場合の取り扱いのルールが定められており、その中に、NDAに反映させた方が良い内容が含まれていることがあるので、NDAの検討を始める前には念のため会社の情報管理規定を一読しておくことをお勧めします。

 

以上、ざっくりと書いてみました。これぐらいのことを見ておけば、最低限のことはやっているということになるのかなと思います。最も、実務は日々進化しているので、いろいろなイレギュラーな条項を目にすることはよくあります。その際は現場で考えるなり書籍に当たるなりして最適解を導くほかありません。日々精進ですね。なお、以前の記事でも紹介しましたが、秘密保持契約について、下記のような書籍が出ています。すぐ読めますので、私の記事で物足りないというひとは一読しておくのが良いでしょう。

 

秘密保持契約の実務―作成・交渉から平成27年改正不競法まで

秘密保持契約の実務―作成・交渉から平成27年改正不競法まで

 

 

経済産業省の秘密保持契約ひな形(17頁以下)

http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/reference2.pdf

 

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