法務の樹海

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司法修習備忘録⑥刑弁起案の考え方と書き方

続きまして、刑弁起案について、書きます。ちょっと息切れしてきましたが、頑張ります。刑弁起案は「どういう順序で書いたらいいかよくわからない」というのが私にとっての躓きでしたので、これについて触れながら書いていきます。

 

 

1、刑弁起案のゴール

 当然ですが、争点となっている事実ついて合理的な疑いを生じさせるのが刑弁起案のゴールです。犯罪を行っていないことの立証ではありません。ただ、私は初めの方の起案で「…以上の通りであるから、…と認めるには合理的な疑いが残る」と記載したところ教官から「弱気?」という意味不明なコメントをもらいました。弱気っていうか…まあ理論的には合理的な疑いが残ればオッケーですが起案上は「Aはやってない!!」と断言するのがいいんでしょうね。これだから刑事弁護人は…いや、嫌いじゃないですよ、むしろ好きなんですけど。

 

2、刑弁起案の基本構造

 実務修習にでると、弁護人はそれぞれが信じる方法で弁護活動をしていますが、起案においては①まずは検察官の主張立証を弾劾し、そのうえで、②自らが主張するストーリーとこれを支える事実を述べる、というのが基本的な記載順序になると思います。「検察官が公訴提起することによって訴訟がスタートし、弁護人は無罪推定原則の下、公訴事実の立証を弾劾する」という構造が刑事訴訟の基本構造であるとするならば、刑事弁護における本質は①であり、②アナザーストーリーの提示とこれを支える事実の主張は、①の目的を達成するための手段ということになるのではないでしょうか。

 ともかく、刑弁起案においては、まず検察官主張の事実を①その事実の根拠になっている証拠に証拠能力はない、②そんな事実ない、③あったとしても要証事実を推認させないという3パターンで争っていくことになります。この点は後に詳しく述べます。

 

3、検察官が立証しようとする事実の把握

 証明予定事実記載書・争点整理の結果などの記録から、検察官が立証しようとしている事実を理解し、潰すべき事実を把握します。争点整理の結果が省略されている場合には、被疑者の言い分を読んで争うべき事実を確定します(要するに「認否を取る」ということです)。ここで争うべき事実を正確に把握しないと論述が全て崩れるのは、前記事までで述べてきたことと全く変わりません。

 

4、無罪か認定落ちか

 争いになっている事実が確定できれば、この点は自ずと明らかになりますが、念のため書いておきます。つまり、犯人性を争っているのか、正当防衛などの違法性阻却事由を主張しているのか、認定落ちを主張しているのか、被疑者の言い分を正しく理解する必要があるということです。認定落ちというのは要するに一部罪を認めていることになるので、起案上は情状弁護をすることが必要になる場合があります(情状弁護はしなくていいよという限定が設問に付されていることは当然あり得ます)。逆に無罪弁論の場合、情状を書くのは論理矛盾なのでやってはいけません。もう一度言います、無罪弁論で情状は書いちゃだめです。実務的には、無罪弁論の中に情状に関する事実を紛れ込ませるというテクニックがありますが、刑弁起案ではそんなテクニカルなことは求められていません。

 

5、弁論の順序

(1)弾劾

 検察官が主張する事実を主として三つの角度から潰します。なお、弾劾を行う前に、ケースセオリーについて一言述べておくと、後に続く消極的事実の立証がスムーズにできますので、冒頭結論部分に付け加える形でケースセオリーの概要を提示しておくのも良いでしょう。

①事実の存否を争う

 オーソドックスに「検察官が主張するような事実は証拠からは認められない」という主張を展開します。例えば、被疑者が正当防衛を主張している事案において、検察側が「被疑者が先に殴りかかった」という事実を主張・立証しようとしており、被害者供述を直接証拠としている場合、その被害者供述について信用性がないとの弾劾を行うことになります(直接証拠型の場合)。記載例は次のようになると思います。

  • 検察官は、被害者供述を直接証拠として、被疑者が先に殴りかかったことを立証しようとしているが、被害者供述には信用性がない。理由は下記の通りである。…(以下信用性がない旨の論証)

 私が修習中にやった起案の中で、そもそも事実が認められない、という弾劾をする場合には、直接証拠型であれ間接事実型であれ、根拠となっている供述の信用性がないことを主張するパターンしか出ていなかったように記憶しています。おそらく弁護教官室は、(検察起案における建前とは異なり)供述証拠が刑事裁判において極めて重要な役割を果たしていることに鑑みて、この点についてしっかり検討する力を養うべきだと考えているのではないでしょうか。また、ある事実の存在を示す明確な物証がある場合、そもそも当該事実の存在を否定するのが難しいということもあるのかもしれません。

 

②証拠能力を争う

 次に、ある事実の立証のために用いられている証拠に証拠能力がないことを主張することが考えられます。これは①とオーバーラップしてくる部分が多いので、大枠で見れば事実がないとの主張の一類型であると整理してもいいと思いますが、便宜的に分割して書きます。具体的には、被疑者が犯人性を自白してしまっている事案において、被疑者の自白が任意性に欠けるものであるから、証拠能力がないという主張がこれに該当します。また、その他の証拠についても当然、違法収集証拠であることを理由として、証拠能力がないとの主張を行うことが考えられます。私がやった起案の中で証拠能力について正面から問うような問題はなかったように記憶していますが、過去、証拠能力について問う起案もあったようなので、全く出ないというわけではないのでしょう。

 ここからは推測になりますが、証拠能力について検討する起案として、作問しやすいのはやはり供述の任意性を問う問題であると思われます(暴力的な警察官を登場させればいいだけなので笑)。ただ、昨今は取調べの録音録画がされていることもあり、無理な取り調べが行われる機会は、重大犯罪においては相当程度減っていると思われます(個人的にはむしろ軽微犯罪の方は依然として無茶苦茶しているような印象があります)。そういった実務の状況もあって、証拠能力の検討を正面から問うよりも、内容が微妙な目撃者供述に「信用性が認められないこと」や、被疑者供述に「信用性が認められること」(要するにきちんと自分の思うところを弁解しているという前提)を起案させた方が有益であるという判断がなされているのかもしれません。なお、私の修習地では、録音録画している取調べで警察官が恫喝的な取調べをして証拠能力が吹っ飛ぶというエクストリームな事例がありました笑。

 

③推認力を争う

 次に、推認力を争う主張をすることが考えられます。間接事実型の立証が行われている場合には、当該間接事実の要証事実の存在を推認させる力が大したことないという主張を行います。具体的な例を挙げると、財物奪取の意思が要証事実となっている事案で検察官が「犯行3日前の被告人の所持金は300円だった」という間接事実を主張している場合には、被疑者の言い分を踏まえつつ「所持金は少なかったとしても、被告人は激昂して被害者を殴った可能性は十分にある」といった感じで、抽象的だが合理的な反対仮説を上げて推認力を争います。ここで、被疑者の言い分を支える事実の論述をがっつりやってしまいたくなりますが、推認力を争うのと消極的事実を立証するのは分けて書いた方が書きやすいので、個人的にはさらっと書いておけばいいのかなと思います。

 

(2)消極的事実の主張立証

 次に、検察官主張の事実が弾劾されたとして「本件において実際に何が起こったのか」ということを被疑者の言い分に沿って構成するために必要な消極的事実を主張・立証していきます。例えば、財物奪取の意図がなかったという主張を行う場合

  • 被告人は被害者を殴りつける2日前、両親にしばらく実家に帰りたい旨の相談をしており、両親からこれを承諾されていたこと
  • 被害者は、被告人が殴りつける前に被告人に対して「飛べない豚はただの豚。お前は飛べない。だからお前はただの豚。悔しかったら飛んでみろ」と言ったこと
  • 被告人は、被害者が被告人に殴りつけられて転倒させた後、救急車を呼んでいること

といったような事実を立証し、冒頭で述べたケースセオリー、例えば「被疑者は財物奪取の意図をもって被害者を殴ったのではなく、被害者の言動に激昂して被疑者を殴った」ということを明らかにしていきます。なお、各事実の認定の結論部分では当該事実の意味合い(刑裁起案的な意味です)をきちんとを記載しておくようにしましょう。

 

(3)被疑者の弁解の信用性検討

 最後に、被疑者の弁解に信用性が認められることを書いておきます。検察官の主張した事実に対する弾劾が成功し、消極的事実も立証できているのであれば、被疑者の弁解は自ずと客観的事実に合致したものになると思うので、それほど分厚く書く必要はないと思われます。全体の総括的な意味で「やはり被疑者主張のケースセオリーが正しいんだ」ということを念押ししておくのがいいでしょう。必ずしもすべての起案において書く必要があるとは思いませんが、これを書くことを頭に入れて論述すると、言い分を無視した記述をするリスクが減るように思います。

 

6、供述証拠の信用性検討

 刑弁起案で天王山となるのは間違いなく供述証拠の信用性です。実務修習に行けば分かると思いますが、検察官は供述調書を取る際に、これでもかというぐらい誘導しますし、検察側証人については証人テストをやりまくって証言を固め倒してきます。従って、供述証拠の信用性を検討する過程を通じて、どうやったら検察官側証人の供述を崩せるかを学ぶのは非常に重要です。というわけで、刑事弁護教官は一生懸命、起案のための記録をつくるのでしょう。

(1)信用性検討の要素

 さて、白表紙に書いてある通り、供述の信用性検討には、いくつか重要な観点があります。その中で、私が個人的に、起案上重要だと思うものについてピックアップして軽く説明してみたいと思います。

①虚偽供述の動機

 動機もないのに嘘をつく人間はいません。虚偽供述だと結論するときは、その動機には必ず触れましょう。また、共犯者供述の信用性を検討する際には必ず「引き込みの危険」に言及しなければならないという暗黙のルールがありますので、忘れないようにしましょう。なお、誘導や勘違いにより事実と異なる供述をしたものであると結論づける場合は、「虚偽」供述の動機という表現は正確ではないので「事実と異なる供述をした理由」というような項目立てをするのが適切ではないかと思います。

 

②供述変遷の有無と理由

 刑弁起案では、ほぼ100%誰かの供述が変遷しています。ですので、供述の核心部分を特定した後は、その部分についての変遷を探すのが最初の作業になるといっていいでしょう。そして、変遷を見つけたらまず「ここと、ここが、こう違う!!」というぐらいの勢いで変遷があったことを具体的に示すことが必要です。また、供述変遷が生じた理由が合理的かどうかについての論述も必要になってきます。変遷が生じた理由が合理的・自然であれば、変遷後の供述に信用性が認められるという方向に傾きますし、逆に変遷が生じた理由が不合理・不自然でなければ変遷前の供述の信用性が認められる方向に傾きます。変遷の理由としては、下記があり得ます。

  • 刑事さんor検察官に言われて思い出しました
  • 刑事さんに証拠物を見せられて思い出しました
  • 唐突に思い出しました(その他意味不明な理由)

警察官・検察官による言葉や証拠物による誘導は、変遷後の供述の信用性に疑義を生じさせる重大な変遷理由なので、もしそれがあるのであれば指摘しておきましょう。また、唐突に思い出したなどを含めた意味不明な理由で証人が変遷を説明している場合には、その背後に「真の変遷理由」があるはずなので(例えば、公判直前になって共犯者たる被告人が否認していることを知った等)、理由の不合理・不自然を指摘した上で、真の変遷理由を探して記載しましょう。

 供述変遷項目で最も重要なのは、どの供述がどのように変遷したのか、正確に記載することです。個人的には、記録からそのまま引用したほうがいいのではないかと思います。変遷について勘違いすることを防げますし、採点もしやすそうですからね。

 

③客観的証拠との整合性

 一般的に最も重要とされているのは客観的証拠との整合性です。「このブツがあるならこの供述はおかしくないか」という指摘をガンガンやっていくことになります。まあ、あくまでも起案という範囲に限ってみれば、記録を見ればパッとわかるようなものが多いので、この点はこの場であえて説明すべきところはありません。

 

④自然性・合理性

 供述自体が自然で合理的かどうかを述べます。だいたいからして不自然・不合理な供述は客観的な証拠と合致していないものなので、客観的証拠との整合性がないことを十分に指摘しておけばそれで足りることが多いと思います。ちなみに、よくある不自然・不合理な供述としては「逮捕されたとき15万円もってたのは、前日たまたまパチンコで大勝したからだ。パチンコ屋の名前は憶えていない。」という供述です。そんな都合よくパチンコで大勝するのは不自然だし、大勝ちして記憶に残るはずのパチンコ屋の名前を忘れるなんていかにも不自然ですよね!でも考えてみれば、偶然大金を手にすることができるのってギャンブルぐらいですから、なんとか言い逃れようとしたらこう言うしかないですよね。

 ともかく、自然性・合理性だけが決め手となって信用性のあるなしが判断できる場合はほぼありません。

 

⑤観察条件

 特に、行為態様に関して争いがある場合、観察条件について論じる必要があることが多いと思います。大体は、暗い、目の前に障害物がある、といった悪条件があります。行為態様にかかる目撃者供述を潰す際には観察条件について注意するようにしましょう。この書き方は結構簡単なので特に細かくは説明しません。

 

(2)結論部分の書き方

 以上のような点に注意しつつ、信用性を検討し、信用できるorできないを結論付けることになります。大体の流れのパターンは下記のようなところではないでしょうか。

  • 供述内容が変遷しており、その変遷に合理的な理由がなく、変遷後の供述は客観的証拠と整合していない。
  • 供述内容が客観的証拠と整合しておらず、虚偽供述の動機がある
  • 観察条件が悪く、警察官or検察官の誘導もあったことから、事実と異なる供述をした

供述内容自体の自然性・合理性は、信用性検討の要素に上がってはいるものの、むしろ起案においては「上記のような事情がある結果として供述内容が不自然・不合理なものになっている」という結論部分の評価ととらえた方がよいのかもしれません。

 

 (3)見出し

 供述証拠の信用性検討については以上となります。なお刑事弁護起案では「検討要素ごとに見出しを立てる」というのが重要だと考えられており、これができていないと減点されるようなので、下記のように一々項目を立てて分析的に記載するのが良いようです。

①虚偽供述の動機

 Aには虚偽供述の動機がある。なぜなら…

②供述の変遷

 Aの供述は●月●日時点においては「…」、公判廷においては「…」と変遷しており、その変遷に合理的な理由がない。すなわち…

③客観的証拠との不整合

 Aの公判廷における「…」という供述は客観的な証拠と整合していない。すなわち…

④…

 

 個人的には文章の流れがよく、記載すべきことさえ記載していれば、起案的にはどんな形式だっていい気はするんですが…ビジュアル的に見やすい資料を作れという要請は裁判員裁判の影響ですかね?

 

7、まとめ

 さて、息切れしながらもなんとか書きたいことは書きました。ざっと自分で見返してみても、やる気満々で書いた検察起案の書き方と比較すると完成度が…とはいえ、最低限のことは書いたと思いますのでこの辺で筆を置かせてください。次回、民事裁判と民事弁護はまとめて書きます。おっと、飽きたとか疲れたとかそういうことじゃないですよ?共通する要素が多いのでまとめて書いた方が分かりやすいと思っただけです。

 

 

刑事弁護の基礎知識 第2版

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