法務の樹海

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司法修習備忘録⑤刑裁起案の考え方と書き方

検察起案に続いて、刑裁起案について書きたいと思います。刑裁起案は経験則と反対仮説のセンスで勝負が決まる感が強いです。今回も基本的な部分を俯瞰しつつ、躓きやすいところについて重点的に書くという形にしたいと思います。

 

1、要証事実と証拠構造

(1)要証事実の現れ

 刑裁は裁判官の立場から、公訴事実と証明予定事実(検察側・弁護側双方)及び争点整理の結果に表れた要証事実が立証されているかどうかを起案していく科目です。記録は手続記録と事件記録に分割されていますが、まずは手続記録に載っている公訴事実・照明予定事実・争点整理の結果が大事ですので、しっかり確認して要証事実が何なのかを把握する必要があります。

(2)証拠構造の重要性

 争点となっている事実の存否の認定が、直接証拠型なのか間接事実型なのかを理解するのは、すべての科目と共通して極めて重要です。この点は何度繰り返しても繰り返しすぎということはないでしょう。

 

2、小問の形式と手続段階

 さて、刑事裁判の小問は、一度やった人は分かると思いますが、手続段階ごとに設けられています。従って、「手続がここまで進みました。この時点でこの問題はどう考えますか」という問題設定がなされているため、回答に当たっては、当該時点より前に出てきた記録はそれを前提にしなければならないし、逆に、当該時点より先の記録を前提にすることはできません。司法修習の序盤の講義で注意をされるのはまずこの点だと思われます。ここをミスしないコツは、「不必要に記録を先読みしない」ということだと思います。

 

3、事実認定起案の前提となる争点整理の結果

 さて、手続記録は争点整理の結果が記載されるところで終わっていると思いますが、事実認定の起案をするにあたっては、この争点整理の結果は絶対に無視してはいけません。3度見ぐらいしましょう。単に「この点を検討せよ」というだけでなく、「ここはいらない」とか書かれていることも当然あるので、要注意です。まあ争点整理の結果なんて普通は無視しないと思いますが、思い込みというのは誰にでもありますからね…

 

4、意味合い・重み

 さて、以上を前提として、刑裁事実認定起案における天王山ともいうべき意味合い、重みの話をしたいと思います。検察起案では「意味付け」という言葉が使われます。どっちも同じだろと思いますが、言葉にうるさい人たちなので、区別して使ってあげましょう笑。中身的には検察起案のそれとほぼ変わりませんが、刑裁起案では経験則と反対仮説は検察起案よりも緻密に書くひつようがあるというのが実感です。

(1)経験則

 細かい定義は白表紙を読んでもらうとして、雑に言うと「こういう事実があれば普通はこうだろ」という法則のことです。例えば、強盗未遂罪で起訴されたAに、財物奪取の意思があったかどうかという点を判断する際に、

  • Aが、被害者Vをボコボコに殴りつける前にVのセカンドバッグを強く引っ張っていた

という事実があった場合

  • セカンドバッグはそれ自体高価なことも多く、また、その中には財布などの貴重品が入っていることが通常であるから、他人のセカンドバッグを強く引っ張る奴は、セカンドバッグないしはその中の貴重品を奪おうと思っているのが普通

 という経験則が成り立つのであれば、上記の事実からAには財物奪取の意図があったということを推認することができます。

 検察起案の場合には、そこまで細かく経験則を記載する必要はないというのが実感ですが、刑裁起案では、この経験則に点数が結構降られているので、高得点を取ろうと思うと、センスの良い経験則をそれなりに細かく記載しておく必要があるでしょう。私はそもそも高得点を取れる感じがしなかったので、経験則についてはふわっとしたことを書いてました。上に記載した経験則がなんとなくいい加減なものであることから察していただければ幸いです笑

 

(2)反対仮説

 次に、反対仮説では、経験則とそれに即した事実が認められるとしても、経験則から導かれる結論が成立しない可能性があることを示す必要があります。上記の例でいうと、例えば

  • AはVをボコる前にセカンドバッグを引っ張ったが財物奪取の意思はなかった

という仮説が具体的に成立し得るかというところになります。この仮説が具体性を帯びるのは例えば、

  • VはAにセカンドバッグを引っ張られた後、Aに対してとんでもなく侮辱的な言動をした

というような事情がある場合には、Aはむしろこの侮辱的な言動に対して激昂したことからVをボコボコにしたのであって、財物奪取の意図をもってボコったのではないという仮説が現実性を帯びることになります。え、この例もなんかちょっとセンスないと思いました?そうなんです、私ちょっとこれ苦手なんですよね笑。だから起案はBでした…

  さて、以上を前提に、刑事裁判で躓きやすい部分について、また列挙方式で書いていきたいと思います。

5、刑裁起案躓きの石

(1)起案の型

 刑事裁判では起案の型がないので、少し戸惑いますよね。ただ、この点については、基本的には検察起案の型を流用しつつ、下記のような形にすればよいと思います。

①結論:Aには財物奪取の意図があった

②重要な間接事実

 ・間接事実1

  ・間接事実の概要

  ・認定プロセス

  ・意味合い・重み

 ・間接事実2

  ・間接事実の概要

  ・認定プロセス

  ・意味合い・重み

③総合評価・結論

④消極的事実の検討

 消極的事実を書く場所や総合評価の方法については後述します。また、検察起案と違って、事実認定には被疑者供述や共犯者供述を使っても大丈夫なので、信用性を十分に検討した上でこれらの供述を使って事実を認定していきましょう。ちなみに、信用性検討については事実認定をすべて書ききった後にまとめてやるというやり方もあります。ケースバイケースで分かりやすい方を選ぶということでよいと思います。

(2)時的要素

 認定をしようとしている事実が、どの時点における事実なのかということは大事です。例えば、Aがある住居に侵入してその中のタンスを物色したという事例において、侵入時点における「窃盗の目的」の有無が争点となっていたとします。この場合

  • 「タンスを物色している時点で窃盗の意思があったこと」
  • 「侵入時点で窃盗の意思があったこと」

は要証事実としては別ですが、検討しているうちに混乱して「間接事実Xがあるからタンス物色の時点で窃盗の目的があった」などと書いてしまう人が結構いるようです。しかし、争点となっているのはあくまで侵入時点における窃盗目的の有無なので、侵入時の態様、言動などの間接事実から、当該時点における窃盗目的を認定する必要があります。なお、上記の例においては「タンスを物色していたこと」は侵入時点における窃盗の意思を推認させる間接事実となります。

 刑事裁判の事実認定は、時間的要素のみならず、要証事実と認定事実のズレに対する許容度は非常に低いです。上記は「要証事実はよく確認しておこう」という一例と位置づけることができます。

(3)間接事実と反対仮説の関係

 ある間接事実を認定してその意味合い・重みを検討する際に、反対仮説として間接事実と両立しない仮説を立ててしまうことがありますが、これは誤りです。反対仮説とは「その間接事実の存在を前提としても、なお要証事実の推認を妨げる」仮説なので、間接事実とは両立するものでなければなりません。例えば、先に述べた

  • 「セカンドバッグを強く引っ張った」

という間接事実を認定した場合に、

  • 「セカンドバッグを引っ張っていない」説
  • 「セカンドバッグは引っ張ったが強く引っ張ってはいない」説

を反対仮説として上げるのは間違いです。そもそもセカンドバッグを強く引っ張ったということは認定できることを前提に重みを検討しているので、それと相反する反対仮説を立ててこれを検討することは矛盾です。

 これも当たり前のように見えますが、注意しないとやってしまいがちな誤りなので、意識するようにしましょう。

(4)供述の信用性検討

 刑裁起案においては、ある間接事実を認定するのに供述証拠を直接証拠として用いる場合が少なくありません。この際、検察起案とは異なり、被疑者(被告人)供述や共犯者供述を用いることも可能です。パターンとして多いのは、被害者や目撃者の供述と被疑者の供述が食い違っているというものです。この場合、検察起案的な発想をすれば、間接事実を認定する際に被害者・目撃者供述の信用性を検討し、被疑者供述はあとでまとめて全体の信用性を検討するという順序になるかと思います。

 しかし、刑裁起案においては、間接事実の認定の部分で、被害者・目撃者供述→被疑者供述とまとめて書いてしまって問題ないです。また、その際注意すべきなのは、検察起案とは異なり、信用性の検討は、供述全体ではなく「認定しようとする間接事実にフォーカスする必要がある」ということです。個別の間接事実の認定のために供述を用いろうとしているのですから、誰のどの部分の供述が信用できるのかということに的を絞って記載する必要があります。例えば「AがVのセカンドバッグを引っ張った」という事実認定で被害者供述と被告人供述が異なっている場合の検討順序はこんな感じになるのではないでしょうか。

  • 目撃者Xは「Aは、Vを殴る前にVのセカンドバッグを引っ張っていた」と供述しているが、この供述には信用性が認められる。なぜなら…(観察条件・客観的事実との合致…etcを述べる)。従って、目撃者Xの上記供述は信用でき、AがVを殴る前にVのセカンドバッグを引っ張ったという事実を認定することができる。
  • なお、この点についてAは「自分はVは殴ったが、セカンドバッグは引っ張っていない」と供述している。しかし、本供述は信用性が認められない。なぜなら…

なお、被害者供述を別の間接事実の認定にさらに用いる際には、重複部分については既に前の間接事実で記載したものを引用する形で問題ありません。

 刑事事実認定ガイドにも記載してあったように思いますが、供述の信用性検討において重要なのは、当該供述における核心部分の信用性です。そして、何が核心部分かは、事実認定をしようとする事実との関係で決まってきます。従って、刑裁事実認定においては、個別の間接事実に係る部分の供述をピンポイントで抜き出して、その部分についての信用性検討に集中するというスタンスが正しいと思われます。

 

(5)総合評価

 要証事実の立証に積極方向に働く事実について検討した後は、これらの事実の総合評価を行うことになります。検察起案と同様ですが、ここでは、各間接事実ごとに立てた仮説が、同時に成り立つ可能性(つまり合理的なアナザーストーリーが成立する可能性)を検討して、それが抽象的な可能性にとどまるかどうかを検討します。結論部分の表現として参考になるのは「被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明できない事実関係」(最高裁第三小法廷平成22年4月27日判決)という文言です。

 これは要するに、アナザーストーリーが成立しないということを表現したものであるといえるので、結論部分で「本件において、●●でないとしたら合理的に説明できない事実関係が存在する。従って、●●は認められる」と書いておくと論述が引き締まります。なお、一般に刑裁起案では「認定落ちや無罪起案はない」とされていますが、71期の即日起案では無罪起案が出ているので、必ずしもそう言い切ることはできないでしょう。

(6)消極的事実の検討

 最後に、消極的事実の検討について記載します。刑事事実認定ガイドにも書いてあると思いますが、総合評価の段階で既に要証事実が認定できないという結論が出ている場合には消極的事実の検討は不必要です。積極的事実を全部集めても認定できないなら消極的事実を検討するのは過剰検討といえるからです。従って、積極的事実の検討で、要証事実が認定できるという場合、消極的事実を検討することになります。

 この際、反対仮説の中で検討している事実や、間接事実の認定の際に検討している被疑者の弁解に係る消極的間接事実は検討する必要はありません。積極的事実の認定の際には検討しなかった事実であって、要証事実の立証を妨げる消極的事実を検討すれば足ります。また、消極的事実は、要証事実の立証を妨げればよいので、意味合い・重みといった検討をそこまで丁寧にする必要はありません。例えば、セカンドバッグの事例で

  • Aは犯行前に「俺は金にはそこまで困ってないんだよ」と言っていたこと

という事実があったとしたら、これは財物奪取の意図との関係では消極方向に働く事実であるといえると思います。この事実が、総合評価の結果を覆すに足りるだけの意味があるのかということを検討することになりますが、およそそのように見えないのであれば、簡単に「推認を妨げるものではない」という程度の評価をしておけばよいと思いますし、まあまあ筋がいい事実だなと思ったら、どのような機序で推認を妨げるのか意味合い・重みを意識しながら記載すればよいと思います。

 ただ、一般論としていえば、積極方向に働く間接事実を認定した段階で、主要な消極的事実は信用性検討や反対仮説の中で検討しているのが通常なので、消極的事実の検討時にクリティカルな事実がでてくることはあまりないと言えます。従って、しょぼい中でもまだ筋がよさそうな事実を2・3挙げて簡単に論駁しておくということで足りるのではないかと思われます。

 

6、まとめ

 さて、刑事裁判起案については以上の通りです。ざっと読んでいただいて分かる通り、私は刑裁起案がそこまで得意ではありませんので、一部記載が抽象的になっています。あらためて自分で書いてみると理解が甘いことがよくわかりますね笑。やはり重要なのは経験則と反対仮説をどう構成するかというところで、これは中々鍛えにくい部分ではあるかと思います。講義や実務修習中に、刑事裁判官が「…という経験則があるよね」とか言っていたら、メモって蓄積するようにしておけば、これらを構成するセンスが磨けるのかなと思いますので、苦手なひとは心がけてみればいかがでしょうか。

 

うーん、刑事裁判起案についてはまだまだ深化の余地がありますね…