法務の役割と楽しさ
またもや友人から「数字とかで結果が明確にでない法務の仕事のどこがおもしろいのか書いてよ」という要望がありましたので、個人的に「法務やり始めて2-3年だとこういうところが面白い…かな?」と感じるところを書いてみたいと思います。
1、法務の役割
そもそも、法務の役割とは何なのかというと、法的リスクのコントロールということに尽きると思います。その文脈の中でどういった業務を担うかは会社の事業・組織戦略に依存してくるので「法務としてはこのような機能を担うべき」という話はしません。
経産省がペーパーを出していましたので、「こんな機能もあり得るよね」という参考程度に。URLを貼っておきます。
2、業務
とはいったものの、法務の業務として典型的なものはいくつかあると思います。ぱっと思いつくので下記ようなものでしょうか。
もちろん、後述の通り法務が担うことが「できる」業務の範囲は広大なので、上記に尽きるものではないですが、法務としてキャリアを歩むなかで、上記のいずれにも触れないということは皆無だと思います。
では、これらの仕事をやっていてどのへんが面白いのか、私が感じていることを以下では書いてみます。
3、どのへんが面白いのか:総論
(1)意思決定に影響
リーガルリスクの中には現実化すれば一発で会社が沈むものもあるので、きちんと整理して指摘すれば、経営陣の意思決定に大きな影響を与えることができます。また、それほど大きなリスクでなくても、必要な手当てを適切なタイミングで提案することができれば、会社の意思決定にそれが組み込まれることが多々あります。意思決定に自分の提案が反映されると会社に貢献することができている実感があって充実感があります。面白いというか充実感。
(2)守備範囲が広い
とにかく守備範囲がものすごく広い。会社のアクションでリーガルリスクと無縁なものはおよそ存在しません。原理的に、法務は会社活動のあらゆる場面でその役割をはたすことができる仕事なんじゃないかと思います。従って「この辺のことやってみたい」ということがあれば、リーガルリスクを洗い出すことを通じてやりたいことに比較的簡単にアプローチすることができます。
もちろん、会社によっては業務もキャリアも硬直的で、決まったこと以外は非常にやりにくいということはあり得ますが、法務は転職が比較的容易な職種の一つなので、やりたいことがやれないなら転職すればいいという自由さもあります。
やりたいことができると楽しいですよね。
(3)成長実感が得やすい
法務は知識がものをいう仕事です。つまり、ガンガン知識を身に着けていけば、それだけでも一定程度までは投入した努力に対して比例的に業務遂行能力が向上します。努力した分成長することができるというのは結構楽しいです。また、経験を積んでいくと、知識量の増大と相まって仕事の精度がどんどん上がっていきます。成長実感が得やすいというのは一ついいところなんだろうと思います。これは専門職系の職種に一般的にいえることかもしれませんが。
4、どのへんが面白いのか:各論
(1)契約・交渉
自分のアイデアが通ったことで交渉上の難点が解決し、合意に至ることがでると充実感があります。その中でもM&Aは思考力だけでなくスピード感も要求されるし、合意に至ればみんな大喜びするので(その後に待ち受けてるのは泥沼のPMIだったりするのですが…)、法務をやっていて血沸き肉躍る数少ない機会なのではないかと思います。
あと、定型契約書のレビューは普段はつまらないんですが、他の仕事で心を乱されているときにやると心が落ち着きます。禅とか茶の湯の世界です笑
(2)会議体運営
取締役会運営と株主総会が該当します。どちらも緻密な準備と調整が必要な仕事で、大失敗はあるが大成功はない、中々痺れる仕事です。が、会社の重要な意思決定プロセスをばっちりみることができるので、とても面白いです。取締役会の資料などを見て「多分A取締役、この部分に突っ込みいれてくるな。よし、上程者の●●さんに言っとくか」みたいな感じで仕事をできるようになって、自分が思った通りに議事が進むと思わずニヤリとしてしまいます。
(3)規制対応
ロビイングとかやるレベルになるとダイナミックで楽しいみたいです。普通の規制対応はとにかく地味で緻密な作業が中心ですが、新規ビジネスの規制対応に成功し、官公庁からOKをもらえた瞬間は結構ハイになりそうという予感がします。あと定期的に審査がある金融系の仕事とかは、審査を乗り切ることが業務上の大きな目標になるので、明確な目標と要件定義の下ギリギリ仕事をやるのが好き・得意な人には面白いんじゃないでしょうか。ただ、失敗も明確なので、シビアな仕事ではあります。
(4)社内規定整備
「とりあえず守ってほしいことを書いておこう」ぐらいの意識でやると神棚に飾ったお札ぐらいの意味しかないですが、社内の実情を調査した上できちんと運用される規定を整備すれば、会社のあり方や風土を変えることができます(…役員級の役職の人のイニシアティブがあってのことですが…)。自分が作った規程で会社の雰囲気が変わる様子を見るのは結構面白いです。
5、面白くないと思ってしまう理由
(1)影響力がない
会社において、法務という組織(あるいは自分自身)のプレゼンスが低い場合、提案しても聞き入れられず、しょぼい仕事しかできない場合があります。要するに経営陣から「いてもいなくてもどっちでもいいけど、他の会社はみんなおいてるからとりあえず置いてる。どっちでもいい部署だから仕事できない奴配置してる」みたいに思われてるときっついです。プレゼンスを上げる方法はいくつかありますが、転職するのが早いんじゃないでしょうか?
(2)派手さがない
絶対的に派手さに欠けます。上記の通り楽しいところはいくつもありますが、いずれもちょっとマニアックというか根暗というか「凄い結果出してみんなから称賛される」というシチュエーションがあまり想像できない職種ではあります。
(3)知識・経験が足りない
これは一般的な話になってきますが、知識・経験が足りないと目の前の事象の意味するところがわからず、場当たり的な薄っぺらい対応をしてしまい、その結果「なんか行き当たりばったりで意味も分からんし考えるポイントもないし面白くないな」となることがあります。自分の仕事について詳しくなることは、仕事を楽しむ第一歩なんではないでしょうか。
(4)単純な仕事を単純なものとしてしかとらえていない
上記と重なりますが、作業自体が単純な仕事を「ああ単純」と思ってやっていると、どんどんテンションが下がります。今自分が取り組んでいる単純な仕事も、何かきっかけと意味があって始まったはずで、意外と深い意味が隠されていたりします。あるいは何の理由もなく惰性でやっている可能性もあります。
単純な作業はまず、その作業にどんな意味があるのか、あるいは惰性でやっているだけで意味などないのかの見極めが重要です。意味があるのであればより効率的に終わらせる工夫をすればいいですし、意味がないならタイミングを見て業務自体をやめる提案をすることになります。いずれにしても「これは単純でバカみたいだけど俺がずっとやらないといけない仕事」と思って漫然と作業をやるのは止した方がいいでしょう。
6、まとめ
そんなこんなで、法務の仕事は意味はあるが地味で面白いところがマニアック、とまとめることができるんじゃないかと思います。どれもピンと来ないなら、職種を変えるのがいいんじゃないでしょうか笑
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