法務の樹海

司法試験合格後、企業法務の世界に飛び込んだ新米法務担当者が、思ったことを思ったまま書き綴りながら、法務の樹海に迷い込みます。

芥川賞と直木賞

さて、遅ればせながら芥川賞直木賞の感想を書いてみる。芥川賞にはピース又吉氏の「火花」、羽田圭介氏の「スクラップアンドビルド」、直木賞には東山彰良氏の「流」がそれぞれ選ばれた。一応、3作品とも読んだが、それぞれ中々面白い作品だった。以下、ざっくりと感想を書いていきたいと思う。若干のネタバレを含むので未読の方は注意されたい。

ーーーーーーーーーーーー

1、「火花」

 売れない漫才師の徳山が、これまた売れない漫才師だが独自の哲学を徹底的に貫く神谷に惹かれ、行動をともにしながら、自分の漫才とそして人生に向き合っていく姿を描いた作品。徳山と神谷の極めてウェットな関係性をどう感じるかが、この作品を楽しめるかどうかの分水嶺だろう。個人的にはあまり好きな作品ではない。ただし、又吉氏の小説に対する実直な思いが伝わってくるところは好印象。

 

2、スクラップアンドビルド

 主人公の健人が、要介護状態にある祖父を、やたらとポジティブな方法で緩慢に弱らせていこうとする話。自分自身は筋トレをして体を鍛えながら、ヨボヨボの祖父を弱らせることに必死になる姿はどこかユーモラスで、テーマ自体はそれほど明るくないにも関わらず最後まで楽しむことができた。選者も指摘しているが、このあたりのバランス感覚が羽田氏の筆力を物語っている。

 

3、流

 国民党の烈士を祖父に持つ主人公の葉秋生が、その祖父の衝撃的な死を経験しながら、暴力・友情・愛情がぐちゃぐちゃに入り混じった濃厚な青春を走り抜ける話。今回紹介する3作品の中では最も面白く読むことができた。第二次世界大戦以降の台湾を舞台にした作品であり、アジア独特の熱気がうまく描かれているところが特に良い。また、台湾人の日本や中国に対するメンタリティの一部を垣間見ることができ、「台湾は親日」というステレオタイプなものの見方が、いかに一面的で薄っぺらいものなのかを突き付けてくる面もある。もちろん、本作品はフィクションではあるが、作者が台湾出身であることに鑑みれば、本作の描写は真実の一面を正確にとらえているのではないかと思う。いずれにせよ、私はこの作品が好きである。

ーーーーーーーーーーーー

 ということで本当にざっくりだが感想を書いた。初めにも書いた通り、以上三つの作品はそれぞれに読ませるところがあり、一読の価値はあると思う。ただ、これらの作品が時代を超えて読み継がれるほどの強度を有しているかと言われると、その点については疑問とせざるを得ない。「火花」や「流」は表現にやや拙い部分があるし、「スクラップアンドビルド」は技術力は高いが人の心に訴えかけるような強いメッセージがないと感じた。芥川賞にしても直木賞にしても、営利企業がPR目的でやっているので、後世に残るだどうだと言うのはある意味ナンセンスだが、折角なら時代や場所を超えて多くの人の心に深く突き刺さるような強烈な作品を選んで欲しいところである。